お祝いはみんなと共に(謎の女の子2)

それは去年の今頃の事だった。

【 誕生日おめでとう。今度そっちに遊びにいきます。 イラナ 】

とだけ書かれたウィック宛の手紙が届いたのは。

皆差出人の名には覚えがなく、狩りに出かけていたウィックをよそにありもない想像を膨らませて盛り上がっていた。
ウィックが帰ると、なぜかここの住人でもない者まで混ざって押し寄せてきて

「イラナって誰!!」
と一斉に聞かれた。
大勢の興味津々な目に見詰められ「な、何だよっ!」と一瞬戸惑ったウィックだったが、一言こう答えた。

「・・・妹だけど」

とたん部屋中から大きなため息が合唱のように流れた。


それから数週間
どうしたことか噂の妹イラナは訪れず、何か都合が変わったのだろうと、いつしか皆わすれていったのだった。





そして今年の7月25日・・・


その日ウィックは夕飯当番だったので、朝から森へ狩りに出かけていた。

「今日は何の丸焼きにすっかなぁ〜」

ウィックのレシピには丸焼きしかない。

その後ウィックは暮れまで狩り続けていたのだが、昼ごろから何かの視線を感じていた。
感覚が獣並みなウィックは、それは人のものだとわかってはいたものの、邪魔をしてくるわけでもなかったのでほうっといた。

しかし、狩り中の自分を見失わずにずっとついてきたその者には正直驚いていた。
ウィックは自分でもそれなりに足と体力には自信がある。とくに森の中ならなおさらだ。
だが、さすがにこう長時間見られているのは気持ちが悪い。
ウィックは意を決して視線の方へ声をかけた。

「おーい!いい加減出てきてくんねぇと気持ち悪いぞー!」

すると聞き覚えのある声と共に、木の陰から女の子が現れた。

「気持ち悪いとはなによ!気持ち悪いとは!」
「っ!おまえ!!」

とんと忘れていたその懐かしい顔
ただ一人の血のつながった妹、イラナ。
いつから会ってなかったんだろう・・・


最初は少しおこり顔だったイラナは、すぐに満面の笑みに変わると言った

「久しぶり、お兄ちゃん!1日早いけど、誕生日おめでとう!!」



二人は夜通し今までのことを話をした。
ウィックは旅やこの町の事を。イラナは孤児院の皆の事を。

「去年は行こうとしたら、ユネ姉さんの陣痛が予定よりかなり早く始まっちゃってさ。手伝いとかしてたら行けなかった・・・ごめん」

ユネ姉さんとは孤児院のいくつか年上の女性の事である。
血はつながってはいないが、そこでは皆家族なのだ。

「いいさ、そんなの。みんな元気ならよ!」

そんな調子で喋っていたのだが
朝、ウィックは疲れ果てていた。

「イラナ・・・おまえ疲れてねぇの・・・?」
「余裕よこんなの。女子を甘く見ないで♪」
「・・・」

よく女子の部屋から夜遅くまで話し声が聞こえてはくるが・・・

「やっぱついていけねーよ・・・」


朝家に帰ってケイルたちにイラナの紹介と事情を話したウィックは、即ベットで昼ごろまで爆睡した。



そして夜

パンッ!パァーン!!
クラッカーが鳴り響き

「せーのっ」

「誕生日おめでとう!ウィック!!」


今日も長い夜になりそうだった。


〜おわり〜